liquid universe

「Je veux dormir pour toujours.」

11

もうひとつ。
私の中に渦巻く幻影。
過去の形をしていつのまにか脚色されて物語のようになっても、確かに現実はあった。

私は彼を、
もう待たなくなった。
でも忘れない。
この記憶が、思い出が、気持ちが、感情が、昔語りが、記録が
なんの意味があるか、わからない。

ただの秘密の恋だったけれど、だんだん愛のような気がしていた。
私も彼も若造だったし、未熟で、軟弱で、社会のことなんてよく知りもしないで、
それでも一緒にいられる気がして、
両家ご挨拶も、同棲も、とてもとても本気だった。
私は浅はかだったし、彼は頼りなかった。
終わってしまっても、幾度か会った。
何も変わらず、笑えることに、いつも安心した。

そうきっと。唯一無二。
だからずっと心のどこかで探し続けてる。

今どこで何をしているのか知らない。
生きているのか死んでいるのかもわからない。
連絡は、途切れては復活し、見失いかけては応答があったりしていたのに。
次の約束があるように、話している最中だったのに。
突然、ほんと跡形もなく消えてしまったように、彼の返事はなくなった。

感情は複雑で、繋がりは明確で、
会いたいだけで会える間柄だったらまだマシだったのかもしれないけど
お金に関することは、どうしても人を苦しいほうに導く。
生活が苦しいのか、心苦しいのか、どっちもか、わからないけれど。
私は督促し続けていて、諦めるとは言ってないけれど、
困ったとき、どうしようもないとき、相談するように話はつけていた...つもり。
それができない状況、心境が、私がもたらしたものだとしたらショックだな。
今まで積み重ねてきたものは何もなかったのって言いたくなる。

周りの多くが、騙されたんだよ、という。
私の、この根拠のない信頼感こそが、悪意のない騙しに囚われ続けてる証拠だよ、と。
純粋に「もう駄目だ。これ以上関われない。」と反省して、身を引いたともとれるし、
「今が苦しいからもう逃げてしまおう」と悪気そっちのけで裏切ったともとれる。
もしくは全然なぁんにも考えずに、ちゃっかり幸せになっているかもしれない。

私の望みはね、
彼が今どういう気持ちで生きているのか知りたい。

まずは生死。それすらわからないから。
もし、いなくなってても、それを知る術がない。
メールは届く。エラーで返ってくることはない。
電話は鳴り続ける。携帯解約されていない。
実家(おそらく)にも電話した。鳴り続けて誰も出られない。
反応が得られないだけで、一方的には送れるところが不思議。
携帯が壊れているわけでもない。他人が使っているわけでもない。
私にバツが悪いとか、もう関わりを断ちたいなら、迷惑メールや着信拒否に登録してればいいけど、そうでもない。
一体どうしたいのか。一体どうしているのか。

考えてみれば、私は、出会った頃の彼の年齢を追い越していて、
年上で憧れていた部分もあったが、いざ自分がなってみると全然大人じゃなかったんだと気づく。
がんばって、大人であろうとしていたんだ、と思う場面が、いくつも思い出される。
それはもう遠い記憶になりつつあるけれど。
彼を一方的に探し続けている時間が、一緒に過ごした時間より長くなってしまった。
こんなにも応答がない中、不定期ではあれ、電話やメールを送り続けているから、
私ひょっとしてストーカー扱いされているかも、と怖くなり、1年前ぐらいに止めた。
「こっちはいつでも連絡待ってるよ」
「たわいもない生存報告だけでもいいよ」というつもりで、
連絡先はここだよ、こういう窓口もあるよ、怒ってないよ、
という扉を開けているつもりで、
もちろんなかったことにはできないからシリアスな内容も入ってるけど、
気軽に返事ができるように、私なりにがんばってアクション起こしてきたつもり。
それでも、返事のないものに何年も送信している事実は、はたから見れば気味が悪いかも。
言い訳していいなら。
いらないならバッサリ言ってくれればそれで話を終わらせられるのに、と言いたい。
なぜなら。
私は本当はストーカーではないから。好きで追っかけまわしてるつもりも、嫌がらせをして困らせようとしているつもりもないから。
むしろ、それならなるべく早く、私を解放してほしい。
気持ちが囚われたままなのは、つらいんだよ。
「もう幸せに暮らしてるから邪魔しないで」と言われたら、どんなにか安心するだろう。
もういっそ本人でなくてもいい、誰かが「彼はしにました」と教えてくれたら、悲しいけれど区切りがつけられる。
好きとか嫌いとかじゃなく、”どうして”という疑問に捕まったままでいる。
時計が、あの時のまま、止まっている。

好きで追っかけてるわけない、と言いながら。
矛盾したこというと、私はたぶん彼をずっと好きだ。
これはきっと一生変わらない。
男の人が結婚しておじいちゃんになっても初恋の人への想いを忘れない、というのと似てるのかも。
私は彼に出会う前も、出会った後も、人を好きになってるし、毎度本気だと自分では思ってるけど。
彼は私の中の次元の違う引き出しの中に、こっそりと分類されているんだと思う。たぶんずっとひとりきりで。
彼に呆れて、泣く泣く”一生一緒”を諦めて、それでもケロリと立ち直って、
わがままに生きて、別の人を好きになったり、好きになられたり、近年結婚の話まで出たりした。
そうやって、一丁前に経験値を積んだ気でいて、実は変わらぬ思いが奥底にある。

唯一無二。
それは彼そのものの素晴らしさ、ということではなく、
私と彼、二人前としての、共同体としての、在り方が、だ。
こんな風にいうと、歴代の恋人や今私に好かれている人は、「なんだよクソ」と思うかもしれない。(ごめんね。”好き”はどれも本気だよ。嘘じゃないよ。一緒にいるときが一番最高の熱量なんだよ、偽りなく。)
...これはそういう話じゃなかった。
彼が一番”合っている”。
少なくとも一緒にいるときはそう信じていたし、今となっては確信めいてきた。
共通認識が、趣味嗜好が、考えていることが、それで思わず口にしてしまう言葉が、何度も、同じだ、似ている、重なっていると思った。
全部、全く同じことばかり、というわけではもちろん無い。やっぱり個は個、別人だから。
でも、とにかく居心地がいい。喧嘩さえも愛おしい。
どれも、今となっては、だけれど。

彼は私を否定しなかった。
私は彼を説教することが多かったけど、彼はそれを受け入れて、私の弱い所を見つけても仕返しすることもなく、優しかった。
優しい人、ということじゃない。人としての優しさがあった。
終わらせたのは間違いなく私で、私のわがままで、私は自ら共同体を捨てたのだ。
誰かを傷つけ、自分も傷つき、そして忘れる努力すらしなかった。

もう一度会えたら、どうするつもり、と共通の知人に言われたけれど、
考えてないね。
どうするって、何ができるのって思うし。
自分の選択を放棄するつもりもないけど、彼次第だと思うな。
生きてるって言われたら喜ぶし、しんでるって言われたら悲しむよ。
幸せだって言われたら関係はそこで終わるし、不幸だって言われたら私が必要かどうか聞く。
それでも不要だったら、私はそこで消えるし、個と個がそれぞれを歩むなら何の問題もない。
私は清算したいんだ。
この淀みながら終わらない流れに、さよならを言いたいんだ。
その次が見たいから。次がないなら終わるから。
期待は、もうしないから。

私が私を閉じ込めている、見えない鳥篭の話。
いつか消滅するかしら。